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見えない不安 鵺


お化けや妖怪について話すとき、「本当にいたのか」「見た人がいたのか」の討論は、あまり意味がない。

昔から伝えるのも人間なら、今聞きたがるのも人間で、それが嘘か本当かなんて見分ける根拠がない。

「今さっきすれ違ったおじさんの人相画を正確に書けるのか」というのと同じで、真実を100%の形にして残すことは何よりも難しい。

結局、その話が好きか、信じるか、どう解釈するか、何を感じるかで人は動くのだ。

鵺は夜に鳴く。

その声は奇妙な鳴き声で、夜な夜な人を不安にさせる。

トラツグミという鳥の鳴き声に似ているそうだ。(鳴き声のリンク→youtube

恐ろしいというより物悲しく寂しく感じるその声は、オカリナに似た透明感もある。

鳴き声を聞くために、周囲の空気全てが一斉に沈黙してしまうような、そんな孤独な美しさがある、

…と今ならのんきに言えるのだが。

真っ暗闇で何も見えない夜に林の奥からこの声が聞こえてきたら、

そしてその主が何者かもわからなかったら、どんなに不安なことだろうか。

この声に毎夜悩まされたのが、平安時代の天皇だった。

毎晩聞く鵺の声に、心身を病み、床に伏せてしまう。

家来に命じて、最後はなんと退治に成功し、無事平和な夜が戻ってきたそうだが、

意地悪な見方をすると、この話を命じられた時、家来は全員真に受けていたのだろうか。

家来の中に、もしかしたら「それ、ただの鳥じゃないかな…」と思っていた人がいたかもしれない。

しかし、天皇は現実に病んでしまっているのだ。

以前紹介した「おとろし」のように、感情が妖怪となって形取られることは珍しくないと考えれば、

鵺もその類ではないだろうかと思えてくる。

当時の天皇という人が日々どんな気持ちでいたのかはわからないが、

わきあいあいとちゃぶ台を囲んでご飯を食べるような、呑気に過ごせた身分の方ではないだろう。

心許せる時間も少なく1日を過ごした夜。

誰もいない寝室で、どこからか響き渡る鵺の声を聞いていると、

一人ぼっちで誰もいない世界に引きずり込まれそうな、不安な夜が続いていたのではないだろうか。

そんな夜、鵺は本当に屋根の上に止まり、鳴き続けていたのかもしれない。

ところで余談に走るが、

伝えられる鵺の姿は、「顔は猿、胴体はたぬき、手足は虎、尾は蛇」だそうだが、

鳴き声と体のバランスが悪すぎやしないだろうか…

できれば「がおー」系であってほしかった。。妖怪は難しい。

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