悲しい魂たち 船幽霊
- magazine-yokai
- 2017年7月23日
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成仏できなかった幽霊が、年月を経て妖怪化する、と言う話がある。
この世への未練や悲しみ、苦しみで成仏しきれない魂が、
長い間その場にいて、時には動物霊などと混じり合うことで、妖怪となる。
そうなった幽霊は未練や成仏できない理由さえもなくしたように、一つの現象として人を襲い、驚かし、苦しめるようになる。
船幽霊よ、あなたもその一人なのだろうか。
一人、と書いたもののその実、幾百にもわたる魂の塊であろう。
海で命を落とした人が妖怪となり果てた姿が船幽霊だ。
船幽霊は、大きな姿で現れ、「ひしゃくをくれ~」といい、船にそのひしゃくで海水を汲み入れて、沈めようとする妖怪だ。
その身丈は、出会ってしまったらもはやこれまでと思ってしまいそうなほど巨大で恐ろしい。
船幽霊に会った時は、穴の空いたひしゃくを渡すと、水が汲めないからと諦めて帰るそうだ。
(他にも、お線香やお団子などを海へ投げ入れることも有効らしい。)
海は、あまりに広い。
海で命を落とした人がいても、毎日毎日その場に行って供養することはきっと難しい。
毎日岸で手を合わせる人達も大勢いただろうにも、想いは届き切らなかったのだろうか。。
彼らを偲び愛する人たちが亡くなった後も、成仏しきれずに海の中でずっと過ごしていたのだろう。
船幽霊はあの世へ人を引き込もうとするが、それがこの世への未練であったことを、果たして彼らは覚えているだろうか。
ひしゃくを求め、ひしゃくがなければ諦めて帰る。
まるで、「船に水を入れる」ことの方をメインとしているようなその行動。
肝心の人の命を奪うことは別の方法でもできるだろうに、
それを考えずに、目的が何かもとうに忘れて、帰っていくのだ。
まさに現象そのもの、といった存在だ。
命を非情に奪われる恐ろしさとともに、彼らの無念が今もなお海の中で生き続けていること、
その声を聞くこともできず、そしてこちらの誰の声ももう届かないのであろうことが、何よりも悲しい。
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