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地続きの穴 丑の刻参り


人を呪わば穴二つ…とはよく聞く言葉だ。

簡単にいうと、誰かを呪うならば、あなたにも呪いがかえってきますよ、ということだ。

もっと大きく解釈すると、誰かを憎み呪った時点であなたの足元にも穴が生まれ、それに足を取られて大事な時間をなくしているのですよ、とも言われる。

もはや日本の伝統芸能と言える呪術、「丑の刻参り」。

妖怪ではない…かもしれないが、果たして人間、とも素直に呼べるだろうか。

その姿は、老若男女誰に聞いてもきっと頭に浮かべる描写は同じであろう。

人気のない丑三つ時…

コーン、コーンと木を打つ音がどこからか響き渡る。

林の奥を覗いてみると、こんな時間に一人の女性が、全身真っ白の白装束を身にまとって立っている。

頭にはロウソクを立てていて、彼女の手にはカナヅチと、五寸釘。

コーン、コーン、となる音の正体は、木に五寸釘で打ち付けられた藁人形だった。

と、

コーン、となって音が止まる。

少しの静寂の後、彼女はゆっくりとこちらを振り向きながら「み~~た~~なぁああ~~~!」と叫びこちらへ向かってくる…!

という話だ。

丑の刻参りを誰かに見られると、呪いが無効となってしまう。

万が一誰かに見つかっていたら、見た者を殺さなければならず、そのためにあんなにも必死に、なりふり構わずに襲ってくる。

(怪談好きであれば、丑の刻参りはもはや定番の話だろうが、この理不尽さはいつになっても、やはり恐ろしい。)

丑の刻参りのルーツとされる1000年以上前のお話で、「宇治の橋姫」という伝承がある。

とある公卿の娘が深い妬みにとらわれ、ある女性を取り殺すため、生きながらに鬼となろうとする。

その鬼となる過程で、頭にロウソクを立て、髪を逆立たせている様が描かれる。

当時体は赤に塗っていたりと、現デザインに至るまではその後も細かい変更があるものの、

丑の刻参りの原型は遠い昔に生まれて今もなお、その「嫉妬」と「呪い」の本質そのものは変わらずに、現代にも残っているのだ。

橋姫は最終的に「嫉妬の鬼」と言われる鬼となるが、

丑の刻参りをしている人間は、いつまでが人間で、いつから、鬼となってしまうのだろうか。

人を呪うために、自分の命も、そして全くの他人の命さえも全く顧みようとしない。

穴は二つでも足りない。

足元に空いた穴は地続きになっていて、そこから別の地獄へ繋がっているような気がする。

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