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忘れられない味 古庫裏婆(こくりばばあ)


ある山中の古寺に、住み着いていた老婆の妖怪だ。

かつてその寺で献身的に家事をこなす良い嫁であったが、夫である住職が死んだ後、寺に隠れ住むようになり、いつからか異常な長寿となり、しまいには妖怪と化してしまった。

住職が7代を過ぎる頃には、お供え物の食べ物を食べたり、金銭を盗み、しまいには墓地から屍を掘り起こして皮を剥いで死体の肉を食べるようになったという。

古庫裏婆の”こくり”、とは”むくりこくり”という言葉からきているという。「恐ろしいもの」、という意味で使われる言葉だ。

(さらにむくりこくりとは、元寇の際の蒙古・高麗軍のことを「蒙古高句麗の鬼が来る」と言って恐れたことに由来するという)

また、”庫裏(くり)”とは寺の台所や、住職や家族の居間のことを指すので、名前の由来となったようだ。

ある日、旅の僧が一晩の宿を求めて古庫裏婆の住む寺を訪ねる。

そこで、僧と古庫裏婆は会話をするのだが、

「私は罪深い女です。成仏できません」

「いや、罪を自覚しているのなら成仏できる身である。私に罪を話してみなさい」

「私は墓をあばいて死肉を食べています。その味が忘れられないのです」

「何、するとお前が、あの古庫裏婆か」

古庫裏婆は僧をあっという間に殺し、その肉を食べてしまった。

そうして、古庫裏婆は今でも成仏できずにいるのだという。。

初めはお供え物を盗むくらいだったものが、

いつしか死肉を食べ、とうとう人を殺しても人肉を喰らうようになってしまった。

彼女はいつから妖怪となったのか?

夫の死後、なぜ隠れて住み始めたのか。

夫の死後に気が触れてしまった哀れな老婆だが、果たして気が触れたのは、本当に夫の「死後」だったのか。

彼女が初めて食べた人の肉。

それは夫である住職のものだったのではと想像して、妙な喉の渇きを覚えるのは、私だけだろうか。

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