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それでも待っている 青女房(あおにょうぼう)


廃れた屋敷に一人、女が鏡に向かっている。

その顔は眉毛もぼうぼうに伸び、目尻は垂れ、だが常に鏡を持ってお歯黒や化粧をしている。

妖怪「青女房」。

”青女”とは、若い娘を表す言葉だという。

また、”女房”とは私室を与えられた高位の女官、貴人邸に仕える上級の侍女をさす言葉だった。

この女房は、身分によって「上臈(じょうろう)」「中臈(ちゅうろう)」「下臈(げろう)」に大別された。

侍女と聞くと、貴族に仕えた身の回りの雑用をこなす人たち、というイメージだが、「私室を与えられた」という通り、ただの小間使い・雑用、という印象よりは、良い暮らしぶりだったであろうことがうかがえる。

青女房は、常に誰かを待っている。

自分から行くのではなく、部屋を訪れてくれる誰かを待っているのだ。

叶わぬ恋に身を燃やしただけならば、妖怪になるにも、その人の元を訪れたり、探し彷徨う妖怪になっていたのではないか。

しかし、”部屋で待っている”ということは…

愛しの君は、いつぞやその部屋に来てくれたことがあるのだろう。。

一度だけか。幾度か、か。

哀れ青女房よ、忘れられないまま体も果てたというに、その人がもう来ることもないのに、ずっとずっとおめかしをして待っている。

願わくば、その人がもう一度姿を現して、もう大丈夫だよと、空へ連れて言ってあげてほしい。

ずっと寂しいはずなのだ。

青女房もきっと、ずっと昔に気づいているはずだ、愛しい人はもうこの世にいないことに。

そして廃れた御所で、もう誰一人その扉を開けてくれる人はいないのだということも。

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