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音への追憶 琴古主(ことふるぬし)


奏者に演奏されると、その楽器には魂が宿る。

その魂は奏者亡き後も生き続け、いつしか一つの生命となるようだ。

壊れた琴に宿る魂が妖怪となって現れたもの、「琴古主(ことふるぬし)」

すでに切れてしまった絃がザンバラ髪のようになり、その本体も木が腐っているのか、荒れてしまっている。

今となってはかつての美しい音色は出ないのだろうか。

琴古主の手元には古い書物がある。

以前の奏者の愛読書か、楽譜か何かだろうか。一人寂しく今も演奏してくれる誰かを待っているのだ。。

その姿は切なくもあるが、どこか愛嬌のある表情で、琴である姿が嬉しかったのだろうか、元の木に戻ろうとはしないのだな。きっとその姿でありたいと思わせる、楽しい思い出が彼の中にあるのだろう。

琴古主は、その姿を現さずに、音だけの妖怪としても出現するという。

その伝承として、ある宴の席で置いておいた琴が、いつしか大きな楠木となり、

以来、その楠の木からはどこからとなく琴の音色が聴こえるようになったという話がある。

その音色を、「琴古主」と呼んだのだ。

琴古主は、自然に還っていく中で、音色はその体に覚えておきたかったのだろうか。

美しい調べに合わせて、人々が酔い楽しむ様を、きっとその琴古主も嬉しく思っていたのだ。

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